市町村合併?
2002年9月28日<4、合併に対する住民の意識>
政府が合併を促進する中、実際にその現場にいる住民は合併をどのように考えているのだろうか。そのことを調べるために、宮城野高校の全校生徒に合併に対する意識調査を行った。質問項目は合併に賛成か反対か、その理由、住んでいる市町村の3点。
(調査日2002年7月10日 840人に配布、有効回答682)
Q、もしあなたの住んでいる市町村が合併するとしたらどう思いますか?
〇主な賛成理由
・交通の便、施設などの向上が期待できる ・お互いの市町村の良いところがいかせる・ 特例債により財政面の余裕ができる・ 過疎化の防止・行政サービスが受けやすくなる
〇主な反対理由・市町村名、住所、市町村独自の制度の変更・現在の規模でもしっかり自治できていないのに、これ以上大きくなる必要はない(仙台市住民)・小規模市町村だからこそできることがある・合併を行う意図がわからない・公的機関が遠くなる・市町村の個性が失われる・目の行き届いた福祉サービスができなくなる
合併反対派が賛成派を上回る結果となったが、賛成派も反対派も目先の影響を理由にあげる人が多かった。自分たちの実際の生活において身近なものへの影響については比較的関心を持っている人が多いようだ。しかし、国の財政や地方分権のことなどを理由にあげた人はほとんどいなかった。また、どうして合併をするのかわからないという人もいた。これは政府の基本方針や目的がしっかりと住民に伝わっていないことと、政府と住民の求めるものが違うということを意味している。調査の結果から、両者の間の合併に対する意識のズレが感じられた。 また、調査では住んでいる市町村も回答してもらった。大規模な都市(仙台市や古川市)の住民は合併を比較的楽観視していた。ある程度、財政基盤や行政サービスが整っているので合併してもしなくてもあまり自分達に影響はないと考えているようだ。しかし小規模市町村の住民は合併をより切実に考えていた。小さい市町村であればあるほど、合併によって自分達により大きく直接的な影響があるからだろう。例えば、住民税の額や行政サービスの変化である。また、大規模都市よりも少子高齢化が進んでいるにもかかわらず、福祉サービスがまだまだ不十分であったり、過疎化などの深刻な問題を抱えているといった現状もある。このようなことが目の前にあるので、小規模市町村の住民は合併をするかしないか、合併に何を求めるのかなどということを切実に考えているのだろう。このように大規模都市の住民と小規模市町村の住民の間にも、合併に対する意識のズレが見られた。
<5、合併の問題点> 「平成の大合併」を進めるうえで1番問題であるのは、合併について十分協議する時間がないということだ。市町村合併特例法が適用されるのは2005年3月までに合併した場合である。その期限は早すぎて適切ではない。現在、期限に間に合わせようと全国で合併ラッシュがおこっている。だが、たったこれだけの短い時間で合併を決めてしまって本当によいのだろうか。<4>の意識調査で分かった通り、政府と住民の間、さらに住民の間でも合併に対する意識のズレがある。政府の意図も住民に十分浸透していない。そのような状況のままで「期限に間に合わせて国から優遇措置を受ける」ために合併を行うのでは意味がない。合併が目的化してしまっている。合併は、今の市町村の現状を改善するために行うのだ。しかし、何のために合併するのか明確に定めないまま合併を進めている市町村も少なくないだろう。このように、ラッシュの流れに乗って合併を進めることは将来の地方自治の空洞化を引き起こしかねない。 総務省の「合併協議会の運営の手引き」によると、合併協議会設置から合併実現までの期間の目安を22ヶ月としている。その内訳は、合併協議準備2ヶ月、市町村建設計画6ヶ月、合併協定項目協議8ヶ月、合併準備作業6ヶ月である。実際はこれで足りるはずがない。すでに合併を決めた静岡市と清水市は合併協議に4年近くかけている。その後ようやく合併に踏み切ったのだ。両市よりも小規模な市町村であっても、目安の通り半年で市町村建設計画を立てるというのは無謀である。建設計画は合併後の市町村の将来像を描くものだ。これがあやふやなままでは、合併をして特例債や補助金を受け取ったとしても、その後のまちづくりに活かせるような計画的な使用はできないだろう。使用の仕方によってはむしろ、余計な財政赤字を背負ってしまうことになるかもしれない。 合併前には少なくとも「何のために合併をするのか」という明確かつ具体的な目的、「財政措置の使用用途」、「自治体の運営方法(特に特例措置がなくなった後)」などの、市町村の将来像をしっかりと定めておかなくてはならない。そうすれば、合併に伴うその他の問題についても対応していけるだろう。「2005年3月まで」という期限は市町村の合併協議を焦らせ、とにかく合併しようという風潮を生み出してしまっている。勢いにまかせて合併した市町村が、将来衰退していくのは明らかだ。それを避け、中身のある合併を行うには、期限の撤廃または延長が望ましい。しかし、合併を促す法律として、期限を撤廃することは困難だろう。もし可能ならば、現在合併協議会を構想中の市町村のことも考慮し、合併特例法の期限を2010年位まで延長した方がよいと私は考える。
<6、合併に対して市町村とその住民に求められるもの>
(1)合併に対しての理解まずは市町村合併がどのようなものかを知らなくてはならない。どのようなメリット、デメリットがあり、それによって、自分たちの市町村がどう変化していくのかを知って初めて住民は合併を選択すべきかどうかを考え、行動を起こせるのである。 埼玉県上尾市は、2001年、住民投票によりさいたま市と合併しないことを選択した。上尾市は合併の話が出たときから、市民自治講座や合併に関する市民討論会などを実施してきた。合併の説明会も180回以上行われた。この結果、判断材料を十分に得た住民は合併賛成・反対、それぞれのネットワークを作り、運動をおこし住民投票を行うまでに至った。「合併をしない」という選択は、上尾市の住民が合併に対する理解を深め、自ら行動して出した結果である。市町村合併がどのようなものであるかを分かっていなければ、合併について考え行動することはできない。現在、合併に対して多くの提言や勧告が出されているが、自治体や住民の側からのものは少ない。これは、実際合併に関わる人たちの理解がまだ不十分で、自ら具体的な行動をおこすまでに至っていないことを示している。市町村合併という課題に取り組んでいくのなら、まずは自治体と住民の両方が合併についての理解を深めることが必要である。
(2)合併の正確な捉え方自治体と住民は合併の捉え方を改めた方がよい。合併の問題点でも述べた通り、合併が目的化してしまっている市町村が多い。市町村合併は自治体の問題を解決する1つの手段に過ぎない。他の手段を考慮に入れることも必要である。確かに合併によって自治体の抱える問題を解決し、一層充実したまちづくりを展開できるのならば、合併を選択するのもよいだろう。しかし、合併を決定する前に、一度他の問題解決手段と比較してみることが必要である。広域行政の徹底や、民間企業・住民活動による行政のスリム化など、いろいろな手段があるのだ。抱える問題によっては、合併以外の手段の方が、効率がよくデメリットが少ないということも考えられる。したがって、自治体と住民は、合併があくまでも問題解決のための1つの手段であることを認識し、合併以外の手段も考慮できる幅広い視野を持つことが必要だ。
<7、市町村合併を調べて> 市町村合併をすることは地方自治の基盤を強化するためである、と政府はいう。しかし、この研究を進めていくうちに、政府と、実際その自治を行う住民との間に意識のズレがあることがわかった。それを少しでも埋めていくために私達はもっと自分の住んでいる市町村に関心を持ち、積極的にまちづくりに関わっていくべきだ。そして市町村は、より住民がまちづくりに参加しやすい状況を作っていくべきである。例えば上尾市のように自治講座を開く、市町村長と住民との意見交換ができる制度を設けるなど、住民が市町村に対して意見を述べられるようにする、市町村の広報誌をもっと住民が関心を持てるように工夫する、など様々な方法が考えられる。「市町村の将来は自らの手で作り出そう」という考えがもっと住民の間におこってくれば市町村合併に関連した住民の活動も、盛んに行われるようになるだろう。そうすれば、合併特例法もより活かされていくのではないかと感じた。 また、今回は資料が手に入らず調べることができなかったが、国外の市町村合併の制度や地方自治のあり方についても研究してみたいと思った。よりよい市町村合併や地方自治のあり方を探求するには、他国の制度を知り、比較することも必要だと思うのだ。 市町村合併を調べることによって、現在の地方自治の状況についての理解を深めることができた。また、新しい課題も見つけることができた。これからも、地方自治について関心を持ち、しっかりと考えていきたいと思う。参考文献「市町村合併」 佐々木信夫著 筑摩書房 2002年「市町村合併と地域のゆくえ」 保母武彦著 岩波書房 2002年「合併反対を選択したまち:上尾の住民投票と市民の運動」 合併反対上尾市民ネットワーク・自治労連上尾市職員労働組合編 自治体研究社 2001年
政府が合併を促進する中、実際にその現場にいる住民は合併をどのように考えているのだろうか。そのことを調べるために、宮城野高校の全校生徒に合併に対する意識調査を行った。質問項目は合併に賛成か反対か、その理由、住んでいる市町村の3点。
(調査日2002年7月10日 840人に配布、有効回答682)
Q、もしあなたの住んでいる市町村が合併するとしたらどう思いますか?
〇主な賛成理由
・交通の便、施設などの向上が期待できる ・お互いの市町村の良いところがいかせる・ 特例債により財政面の余裕ができる・ 過疎化の防止・行政サービスが受けやすくなる
〇主な反対理由・市町村名、住所、市町村独自の制度の変更・現在の規模でもしっかり自治できていないのに、これ以上大きくなる必要はない(仙台市住民)・小規模市町村だからこそできることがある・合併を行う意図がわからない・公的機関が遠くなる・市町村の個性が失われる・目の行き届いた福祉サービスができなくなる
合併反対派が賛成派を上回る結果となったが、賛成派も反対派も目先の影響を理由にあげる人が多かった。自分たちの実際の生活において身近なものへの影響については比較的関心を持っている人が多いようだ。しかし、国の財政や地方分権のことなどを理由にあげた人はほとんどいなかった。また、どうして合併をするのかわからないという人もいた。これは政府の基本方針や目的がしっかりと住民に伝わっていないことと、政府と住民の求めるものが違うということを意味している。調査の結果から、両者の間の合併に対する意識のズレが感じられた。 また、調査では住んでいる市町村も回答してもらった。大規模な都市(仙台市や古川市)の住民は合併を比較的楽観視していた。ある程度、財政基盤や行政サービスが整っているので合併してもしなくてもあまり自分達に影響はないと考えているようだ。しかし小規模市町村の住民は合併をより切実に考えていた。小さい市町村であればあるほど、合併によって自分達により大きく直接的な影響があるからだろう。例えば、住民税の額や行政サービスの変化である。また、大規模都市よりも少子高齢化が進んでいるにもかかわらず、福祉サービスがまだまだ不十分であったり、過疎化などの深刻な問題を抱えているといった現状もある。このようなことが目の前にあるので、小規模市町村の住民は合併をするかしないか、合併に何を求めるのかなどということを切実に考えているのだろう。このように大規模都市の住民と小規模市町村の住民の間にも、合併に対する意識のズレが見られた。
<5、合併の問題点> 「平成の大合併」を進めるうえで1番問題であるのは、合併について十分協議する時間がないということだ。市町村合併特例法が適用されるのは2005年3月までに合併した場合である。その期限は早すぎて適切ではない。現在、期限に間に合わせようと全国で合併ラッシュがおこっている。だが、たったこれだけの短い時間で合併を決めてしまって本当によいのだろうか。<4>の意識調査で分かった通り、政府と住民の間、さらに住民の間でも合併に対する意識のズレがある。政府の意図も住民に十分浸透していない。そのような状況のままで「期限に間に合わせて国から優遇措置を受ける」ために合併を行うのでは意味がない。合併が目的化してしまっている。合併は、今の市町村の現状を改善するために行うのだ。しかし、何のために合併するのか明確に定めないまま合併を進めている市町村も少なくないだろう。このように、ラッシュの流れに乗って合併を進めることは将来の地方自治の空洞化を引き起こしかねない。 総務省の「合併協議会の運営の手引き」によると、合併協議会設置から合併実現までの期間の目安を22ヶ月としている。その内訳は、合併協議準備2ヶ月、市町村建設計画6ヶ月、合併協定項目協議8ヶ月、合併準備作業6ヶ月である。実際はこれで足りるはずがない。すでに合併を決めた静岡市と清水市は合併協議に4年近くかけている。その後ようやく合併に踏み切ったのだ。両市よりも小規模な市町村であっても、目安の通り半年で市町村建設計画を立てるというのは無謀である。建設計画は合併後の市町村の将来像を描くものだ。これがあやふやなままでは、合併をして特例債や補助金を受け取ったとしても、その後のまちづくりに活かせるような計画的な使用はできないだろう。使用の仕方によってはむしろ、余計な財政赤字を背負ってしまうことになるかもしれない。 合併前には少なくとも「何のために合併をするのか」という明確かつ具体的な目的、「財政措置の使用用途」、「自治体の運営方法(特に特例措置がなくなった後)」などの、市町村の将来像をしっかりと定めておかなくてはならない。そうすれば、合併に伴うその他の問題についても対応していけるだろう。「2005年3月まで」という期限は市町村の合併協議を焦らせ、とにかく合併しようという風潮を生み出してしまっている。勢いにまかせて合併した市町村が、将来衰退していくのは明らかだ。それを避け、中身のある合併を行うには、期限の撤廃または延長が望ましい。しかし、合併を促す法律として、期限を撤廃することは困難だろう。もし可能ならば、現在合併協議会を構想中の市町村のことも考慮し、合併特例法の期限を2010年位まで延長した方がよいと私は考える。
<6、合併に対して市町村とその住民に求められるもの>
(1)合併に対しての理解まずは市町村合併がどのようなものかを知らなくてはならない。どのようなメリット、デメリットがあり、それによって、自分たちの市町村がどう変化していくのかを知って初めて住民は合併を選択すべきかどうかを考え、行動を起こせるのである。 埼玉県上尾市は、2001年、住民投票によりさいたま市と合併しないことを選択した。上尾市は合併の話が出たときから、市民自治講座や合併に関する市民討論会などを実施してきた。合併の説明会も180回以上行われた。この結果、判断材料を十分に得た住民は合併賛成・反対、それぞれのネットワークを作り、運動をおこし住民投票を行うまでに至った。「合併をしない」という選択は、上尾市の住民が合併に対する理解を深め、自ら行動して出した結果である。市町村合併がどのようなものであるかを分かっていなければ、合併について考え行動することはできない。現在、合併に対して多くの提言や勧告が出されているが、自治体や住民の側からのものは少ない。これは、実際合併に関わる人たちの理解がまだ不十分で、自ら具体的な行動をおこすまでに至っていないことを示している。市町村合併という課題に取り組んでいくのなら、まずは自治体と住民の両方が合併についての理解を深めることが必要である。
(2)合併の正確な捉え方自治体と住民は合併の捉え方を改めた方がよい。合併の問題点でも述べた通り、合併が目的化してしまっている市町村が多い。市町村合併は自治体の問題を解決する1つの手段に過ぎない。他の手段を考慮に入れることも必要である。確かに合併によって自治体の抱える問題を解決し、一層充実したまちづくりを展開できるのならば、合併を選択するのもよいだろう。しかし、合併を決定する前に、一度他の問題解決手段と比較してみることが必要である。広域行政の徹底や、民間企業・住民活動による行政のスリム化など、いろいろな手段があるのだ。抱える問題によっては、合併以外の手段の方が、効率がよくデメリットが少ないということも考えられる。したがって、自治体と住民は、合併があくまでも問題解決のための1つの手段であることを認識し、合併以外の手段も考慮できる幅広い視野を持つことが必要だ。
<7、市町村合併を調べて> 市町村合併をすることは地方自治の基盤を強化するためである、と政府はいう。しかし、この研究を進めていくうちに、政府と、実際その自治を行う住民との間に意識のズレがあることがわかった。それを少しでも埋めていくために私達はもっと自分の住んでいる市町村に関心を持ち、積極的にまちづくりに関わっていくべきだ。そして市町村は、より住民がまちづくりに参加しやすい状況を作っていくべきである。例えば上尾市のように自治講座を開く、市町村長と住民との意見交換ができる制度を設けるなど、住民が市町村に対して意見を述べられるようにする、市町村の広報誌をもっと住民が関心を持てるように工夫する、など様々な方法が考えられる。「市町村の将来は自らの手で作り出そう」という考えがもっと住民の間におこってくれば市町村合併に関連した住民の活動も、盛んに行われるようになるだろう。そうすれば、合併特例法もより活かされていくのではないかと感じた。 また、今回は資料が手に入らず調べることができなかったが、国外の市町村合併の制度や地方自治のあり方についても研究してみたいと思った。よりよい市町村合併や地方自治のあり方を探求するには、他国の制度を知り、比較することも必要だと思うのだ。 市町村合併を調べることによって、現在の地方自治の状況についての理解を深めることができた。また、新しい課題も見つけることができた。これからも、地方自治について関心を持ち、しっかりと考えていきたいと思う。参考文献「市町村合併」 佐々木信夫著 筑摩書房 2002年「市町村合併と地域のゆくえ」 保母武彦著 岩波書房 2002年「合併反対を選択したまち:上尾の住民投票と市民の運動」 合併反対上尾市民ネットワーク・自治労連上尾市職員労働組合編 自治体研究社 2001年
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